世界最高峰エベレストを女性で初登頂したのは日本人女性だと高校生の時にはなんとなく知っていた気がするが、
それが田部井淳子さんであるとはっきりと認識したのは2001年の1月にNHKで放映された
『プロジェクトX エベレストへ 熱き1400日~日本女子登山隊の闘い~』を見た時だった気がする。
2000年春に大学生になり仙丈ヶ岳など高山を登り、その年は「山の自然学」の教授のゼミに出入りするようになり、
鳥海山や大朝日岳、東沢渓谷からの甲武信ヶ岳に登って高山の登山に目覚める年でもあった。
2002年は国際山岳年でもあり、その閉幕ということで2003年の春に「山の自然学」の教授が講演をするというので、
桜上水にある日本大学文理学部の講演会に行ったことがある。
その時に国際山岳年日本委員会の委員長として田部井淳子さんが登壇していた。
「私も「山の自然学」を読んでいるんです」というようなお話をされていて、こんな有名な方が指導教授の本を読んでいるんだなと感動した覚えがある。
2009年にはNHKの趣味悠々でタレントのルー大柴氏を田部井さんが高尾山から段階を踏んで最後は富士山まで登れるようにするという企画が面白かった。
山小屋でルー大柴氏の足の裏を揉んであげる田部井さんを見て、すごいなあと感心した。
そして東日本大震災で被災した福島の子供たちを連れて富士登山をするというプロジェクトのテレビ番組を見たのは何年前だろう。
それが田部井淳子さんの元気な姿を見た最後だったと思う。
今回読んだ唯川恵の『淳子のてっぺん』はその田部井淳子さんをモデルにした小説。
ほぼ事実に近いのかなとは思うが、フィクションも含まれているので小説ということにしたのだろう。
なので、主人公も田部井淳子ではなく「田名部淳子」になっている。
主人公を取りまく登場人物はみな仮名となっていると思うのだが、田部井氏がエベレストに登頂した時のシェルパ、
アンツェリン氏だけは本名で出ているのが不思議だ。
エベレスト登頂のところはなんとなく映像で見た覚えがあるなと思ったが、(それでNHKプロジェクトXで見たと思い出した。)
一番面白かったのが女子登攀クラブでアンナプルナⅢ峰を登った経緯のところ。
同じレベルの女性登山家の集まりだったので色々もめるのだが、確かにそうなるだろうなと思った。
パーティ―を組んで海外遠征をしても、最後ピークにアタックできるのは数名。
有名登山家とそのサポートチームならもめないだろうが、同じレベルの登山家の集まりならみんな登頂したいはずだ。
その中で「偶然に」アタック隊に選ばれ登頂したとなると、いろいろと軋轢が生じそうだ。
そして田部井さんはアンナプルナⅢ峰でも登頂した隊員の2名の内1人で、次のエベレストでも隊員中唯一登頂する。
アンナプルナにもエベレストにも参加したのに登頂できなかった作中の「大里恭子」みたいな人が本当にいたとしたら、
2回目のエベレストは譲ってよと思うに違いない。
作中の「桑中ゆかり」のように「百万円かけて荷揚げに来たわけじゃないんですよ」と言いたくなるのは分かる気がする。
自腹を切って仕事も家庭も投げ打って来たのに、結局は登頂者のサポートで終わってしまうのだ。
いくら「女子登攀クラブ」「日本女子登山隊」で登頂成功したといっても、結局は実際にピークを踏んだ人の名前しか残らない。
別に名誉のためだけに登っているわけではないだろうが、ピークを踏んでいなければその頂の世界を体験していないわけだし、
名前が売れなければその後の登山人生も大きく変わってくるだろう。
この小説を読んで、田部井淳子さんは大学卒業後に社会人山岳会に入ってもちろんものすごい努力はしただろうけれど、
それと同じくらいすごく幸運な人だったんだなと思った。
いいタイミングでいい人脈に巡り合うことができているし、会社にも家庭にも恵まれている。
幼馴染みと谷川岳の帰りに遭遇して山岳会に誘ってもらったり、学生時代の友達が新聞記者になっていて再開し、
一緒にエベレストを目指すようになる、なんていうところは本当だとしたらすごい偶然だ。
そのあたりは本当なのか、ノンフィクションの作品で確認してみたいと思った。
ちなみに、マッキンリーはデナリと呼ばれるようになったのだから、エベレストもそろそろサガルマータと呼ばれてもいいような気がする。
スポンサーサイト
テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学
- 2023/09/21(木) 23:25:42|
- TV・ラジオ・音楽・本・映画
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
今年は夏が終わらない。
昨日も今日も30℃を超える暑さで、近場の低山歩きをしようという気持ちにもならない。
金曜日に放映された名探偵コナンの映画『天国へのカウントダウン』を録画しておいたのを見たら、
これは以前海外旅行の際の機内かなにかで見たものだったが、面白かったのでそのまま見た。
2001年と20年以上も前の映画なので今さらネタバレもないかと思うので書いてしまうが、
犯人が富士山の展望を高層ビルに阻害された画家、というのがなかなかに新しい視点だったのかなと思う。
まだ携帯電話も普及していない時代で、今ほど郊外に高層ビルもない段階でなかなかの着想だ。
舞台は西多摩市となっているが、多摩モノレールが出てきていて隣が「あさひ野市」=日野市と連想されるので、
立川市や八王子市あたりを想定しているようだ。(立川は北多摩、八王子は南多摩ではあるが。)
今は立川も八王子も駅前に高層マンションが建っているが、これが建ったことにより、富士山の眺望が阻害された地域があるはずだ。
暇なので、Amazonプライムで昨日は『シン・仮面ライダー』を見て、今日は『シン・ウルトラマン』も見た。
『シン・』シリーズは過去の特撮物を現代的な科学解釈で説明しようという庵野秀明監督のシリーズだが、
以前見た『シン・ゴジラ』も面白かった。
『シン・仮面ライダー』は今年の春公開なのにもうAmazonプライムにあるのかと思って先に見たのだが、
結果的には『シン・ウルトラマン』の方が面白かった気がする。
『シン・仮面ライダー』の方は、悪の組織ショッカーが
Sustainable Happiness Organization with Computational Knowledge Embedded Remodeling
の略ということになっている。
うまい事考えるなと思う。
人類を改造することによって持続的な幸福を目指す組織なのである。
なので、人類と昆虫類を合成した改造を行っているわけだ。
「悪の組織」がなぜ人類改造を行っているのかがうまく説明できている。
そして、全人類をハビタット世界へと誘う―、エヴァンゲリオンの人類補完計画を彷彿させる展開が庵野監督ならではだ。
『シン・ウルトラマン』の方は、謎の禍威獣(怪獣)が次々と日本を襲う。
この禍威獣は日本にしか現れないということで、まるでエヴァンゲリオンの「使徒」だ。
最終的に地球を太陽系ごと破壊しようとした「ゼットン」などの造形もエヴァンゲリオンを彷彿とさせるものがあり、
なんとなくエヴァンゲリオンの実写的な雰囲気もあり楽しかった。
衛星軌道上に巨大構造物がある場合、太陽光線を受けて昼間にはあんなふうに青空に白く見えるんだろうなと思う。
そして、庶民には何も知らされず、明日がそのままあると思っているのに、破滅の時はすぐそこまで迫っているのである。
テーマ:映画感想 - ジャンル:映画
- 2023/09/17(日) 16:20:17|
- TV・ラジオ・音楽・本・映画
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
南海上の台風13号は上陸前に熱帯低気圧となり消滅し、今日は朝から晴天。
暑くなるとの予報だったが、確かに気温は高いがちょっと強めの南風が吹き込みそこそこ爽やかな時間もある。
この時季になると「秋きぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という古今和歌集の歌を思い出すが、
1000年経って気候変動が起きているとはいえ、未だに季節の移ろいを感じるのは変わらないのだと思う。
さて、こんなちょっと爽やかな秋の訪れを感じる暇な一日は読書に最適だ。
登場人物それぞれにそんなに感情移入できず、ちょろちょろと読み進めていた高村薫の『マークスの山』を一気に読了。
1993年の作品なので30年前の作品だ。
高村薫の作品は高校生の時に『照柿』を読んで以来なので、25年ぶりとなる。
南アルプスの北岳の麓にある、南アルプススーパー林道の工事の飯場での殺人事件、そして夜叉神トンネル付近の心中事件が
発端となり、それが16年後の連続殺人事件の火種となっていたという凝ったつくりのミステリー。
中心となる刑事と殺人犯の主観的な視点が多く、そこに感情移入できないとなかなか読み進められない。
警察内部と外部の検察の足の引っ張り合いもいちいち詳しく、そこもあまり興味が乗らない。
刑事もののドラマ化を意識したのか、警察の登場人物もちょっと多すぎる。
殺人犯とそれを受け入れ愛する看護婦(現:看護師)の関係性もちょっと気持ち悪い。
それでも、山の話が出てくるのでそこは面白い。
あと、ポケットベルや駅にたくさん並ぶ公衆電話、そして今はもうない新宿の小田急百貨店、甲府の山交百貨店、
そして八王子の医療刑務所などが出てくる。
甲府に行くのに乗った列車は「L特急」。
わざわざ現金の受け渡しに西武百貨店の紙袋と出てくるのは、その時代ならではの百貨店の紙袋には意味があったのだろうか。
ちょうど30年前くらいの中学生の時は松本清張のミステリーが好きでほとんど読んだのだが、
なんとなくその30年前に松本清張の世界を読んでいるくらいの感じで昔の世界を楽しめる。
この後はちょっとネタバレになってしまうが、
マークス=MARKSに合わせて、メンバーのひとりである林原をわざわざ「りんばら」と読ませるのはちょっと無理があった気がする。
最初に登場した時「林原」にわざわざ「りんばら」とフリガナがふってあったので、何かあるなと思っていたのだが、
MARKSの「R」だったわけだ。
ミステリーにはありがちだが、舞台背景は壮大なのだが、結局の殺人動機がどうにもチープで腑に落ちない。
わざわざMARKSたちの思い出がつまった「山」で殺人をしようと思うわけがないとおもう。
大好きな山で殺人をしてしまったら、その後山に登れなくなってしまうし、山を思い出すたびに殺人を思い出してしまう。
山好きなら、山ではなく海とかもっと全然別な場所で、自分の生活とはまったく関係なく忘れてしまう場所でやろうと思うのではないか。
しかも、殺人には至らずに結果的に「邪魔者」は凍死してくれたのだから、それをわざわざ死体遺棄する必然性がない。
山での凍死なら検視すれば死因ははっきりするし、それ以上に罪を問われることはないだろう。
死体遺棄、損壊をしてそれがバレた場合のリスクの方が大きすぎる。
しかもその前2夜に渡って一緒にテント泊した相手に対して、悪意を抱き続けることができるだろうか。
最後に連続殺人犯は北岳に登って凍死する。
MARKSの悪意が乗り移ったかのような精神分裂病(現:統合失調症)の犯人が、最後にあの山を越えれば青空が見えると登った山が北岳。
そして雲が晴れて富士山が見える。
山の自然を壮大に描いた感じがするが、登山をしない人がこれを読んだら、なんとなく山の暗さ怖さ気味悪さを全面的に感じて、
登山する人ってちょっと暗くておかしいんじゃないかと思うかもしれないと思った。

2015.07北岳にて
テーマ:読書感想文 - ジャンル:小説・文学
- 2023/09/10(日) 23:34:27|
- TV・ラジオ・音楽・本・映画
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
来週からは雨の天気が続くようで、これでやっと涼しくなるのだろうか。
でもそれも本州南岸に近づく台風12号から変わった熱帯低気圧の影響のようなので、まだまだ蒸し暑い日が続くのだろうか。
この週末は、結局またまた湿った南風が吹き込む蒸し暑い日で、山の方を見ると雲がもくもくと湧いている。
ただ、朝はさすがにちょっと涼しくなったようにも思う。
2019年の晩秋に購入したガーデンシクラメン(ミニシクラメン)↓
http://azmst.blog91.fc2.com/blog-entry-1395.html2020年、2021年、2022年と夏を越し、今年の夏もこれで越し、これから5回目の開花を迎える。

↑2023年春
2020年から3年間はウェットで夏越ししたが、ここで鉢の中の根もいっぱいになっていることだし、
用土の更新を兼ねて今年の夏はドライで夏越しすることにした。
今年の夏は結果的にものすごく暑かったので、ドライでよかったようだ。
ここで植替えしないと根と芽が動き出してしまい、傷めてしまうので昨日植替えをした。
一緒にドライで夏越しした普通サイズのシクラメンはやはり球根が腐ってしまっていた。
普通サイズのシクラメンは関東地方の夏越しは難しいようだ。
その点、ウェットでも夏越しするガーデンシクラメンは強い。
ちょっと心配だったが、鉢から取りだすとしっかりと硬い球根が出てきた。
2023年の夏はドライで夏越しした。

鉢から取り出してみると、思った以上に球根が成長していたのでひと回り大きい5号鉢サイズの鉢にした。
一部芽が動き出していたので、ちょうどいいタイミングだった。

赤玉土6:腐葉土4がいいようだが、腐葉土の代わりに元肥の入っているピートモス主体の培養土にしてみた。

この暑さでも夏越しできるガーデンシクラメン。
今年は違う色のものを買い足してみようかと思っている。
テーマ:ガーデニング - ジャンル:趣味・実用
- 2023/09/03(日) 23:59:21|
- 園芸
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
7月14日にテレビ放映されたものを録画して、見ていなかったジブリ映画『コクリコ坂から』。
脚本は宮崎駿だが、監督は息子の宮崎吾朗だし、よく知らないが恋愛ものみたいだし、
『耳をすませば』の時代設定を変えただけな感じでつまらなそうという印象。
なので、公開から10年以上経つのだが見たことがなかった。
録画したままになっていたが、暇なので見ることにした。
最初はだらだらとしてつまらないかなと思っていたが、主人公たちの通う高校の文化部の部室棟「カルチェラタン」が
出てきたあたりから面白くなってきた。
「カルチェラタン」の建物内の描写が、建物は木造ではなかったが自分の大学生時代のサークル棟に似ていて、
なんとなく懐かしさもあった。
「カルチェラタン」の取り壊し阻止をめぐる物語、そこに主人公たちの出自の謎がうまい具合にテンポよく織り込まれている。
学園もの、青春ものが元来苦手な自分にとっては珍しく最後まで楽しめた。
原作は少女漫画で、文化部部室棟「カルチェラタン」は出てこないらしい。
主人公が自宅に下宿する男に魅かれて、次は高校の先輩に魅かれて、そして「訳あって」離れて、
そしてもう1人の男と付き合うという、もう本当に恋愛ものらしい。(原作については映画を見終わった後に調べた。)
「カルチェラタン」の話がなく、それだけだったら途中で見るのをやめていたかもしれない。
それではまったく「私をめぐる2人の男たち」だけの『耳をすませば』と同じだ。
やはりこれは宮崎駿が脚本で、1960年代のあの時代の空気をうまく描いたからこそ面白くなったのだと思う。
ただ、『耳をすませば』は内容はつまらないのだが、舞台がなじみのある聖蹟桜ヶ丘で、その精緻な描写が好きなので好きな映画ではある。
自分にとって内容も、舞台も興味がなくつまらなかった一番のジブリ映画は『海がきこえる』だ。
今読んでいる高村薫の『マークスの山』が、豆腐屋が引き取った養子がとんでもない殺人鬼という話で、
こういう小説があると里親になる人も減ってしまうんではないかと危ぶんでいたのだが、
この『コクリコ坂から』では、養子である風間俊がその養父ととてもいい関係を築いているのも好感度が高かった。
そして「運動部の彼」が至上とされがちな青春ものだが、『コクリコ坂から』でも『耳をすませば』でも文化系の彼に魅かれる、
というのはジブリならではなのかなと思った。
テーマ:アニメ・感想 - ジャンル:アニメ・コミック
- 2023/09/02(土) 23:59:36|
- TV・ラジオ・音楽・本・映画
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0
次のページ